2010年代のビョーク

10年代のアルバムは、「Biophilia」(バイオフィリア)、「Vulnicura」(ヴァルニキュラ)、「Utopia」(ユートピア)の3枚です。ファッションも先鋭的になり、アルカとのタッグで音楽的にも面白くなってきます。

2011年

ビョークのアルバム「Biophilia」(バイオフィリア)
(バイオフィリア)
第7作目は、自然科学やテクノロジーに傾倒した理系アルバムです。曲毎にテーマがあり、色々な特殊楽器(「関連情報」のページ参照)も取り入れ、なかなか実験的な内容です。全曲がアプリ化(タッチパネルで操作可能)され、教育用として配信もされました。ジャケット写真は、赤毛の巨大なヅラがインパクト大で、腹はハープになっています。こういう奇抜なファッションでも、しっかりアートになる所が素晴らしいです。左上の、音符と目玉を組み合わせた記号は、シンボルマークです。タイトルは、ギリシャ語を組み合わせた造語で、bio(生)+philia(〜好き)=「自然への愛」(love for nature)という感じです。
ビョークの「Mutual Core」のMV
Crystalline (クリスタライン)
このアルバムで一番オススメの曲は、「Crystalline」です。規則的なリズムで進行し、終盤のsparkle(煌めき)で曲も強く弾ける所が良いです。ちなみに、今作10曲のテーマを並べると、1=月、2=雷、3=結晶、4=宇宙の創造、5=観測不能な暗黒物質、6=DNA、7=宿主に寄生するウィルス、8=生物の片方の性による犠牲、9=地球の構造(核、プレート)、10=地球の公転と至点、です。ミクロからマクロまで幅広いです。また、特殊楽器の使用曲は、「Thunderbolt」はテスラコイル、「Crystalline」と「Virus」はガムレスト、「Sacrifice」はシャープシコード、「Solstice」は重力ハープとなっています。
Cosmogony (コズモゴニー)
「Cosmogony」でアルバムの流れが変化し、抽象度が増した中盤に入ります。4つの宇宙の始まり(アメリカ先住民の神話、ヒンドゥー教の神話、アボリジニーの神話、ビッグバン理論)が語られ、コーラスが美しく、壮大な感じが良いです。2020年に、アイスランドのハムラリッド合唱団(The Hamrahlid Choir)にカバーされ(「Come and Be Joyful」に収録)、限定版レコードも発売されました。この合唱団は、後に「Fossora」の「Sorrowful Soil」に抜擢されます。
Mutual Core (ミューチュアル・コア)
「Mutual Core」は、展開が面白いです。穏やかな曲と見せかけて、サビでいきなりテンションが変化します。同様に、「Sacrifice」も急な変化が起こる曲です。MVは、地層、プレート衝突、火山などの地質学的要素を、かなり個性的なイメージで描いてます。監督は、中国系アメリカ人のアンドリュー・トーマス・ホワン(Andrew Thomas Huang)で、この曲以降、ビョークのMVを多く手がけています。
ビョークの「Hollow」のMV
1MoonSMV
2Thunderbolt--
3CrystallineSMV
4CosmogonyS-
5Dark Matter--
6Hollow-MV
7VirusS-
8Sacrifice--
9Mutual Core-MV
10Solstice--

2015年

ビョークのアルバム「Vulnicura」(ヴァルニキュラ)
(ヴァルニキュラ)
第8作目は、離婚の傷心アルバムです。夫のアメリカ人芸術家マシュー・バーニー(Matthew Barney)との離婚前&離婚後に作った曲を、時系列で並べています。弦楽器がメインで、重い曲が多いです。タイトルは、ラテン語からの造語で、vulnus(傷)+cura(癒し)です。ジャケット写真の、胸にざっくり開いた傷と、癒しをイメージした黄色が、タイトルを象徴しています。音楽的には、ベネズエラ人のアルカ(Arca)との共同プロデュースが重要ポイントです。彼は、アバンギャルドでアングラな曲を作るアーティストで、ビョークのスタイルに新風を吹き込んでます。今作からはシングルが出ませんでしたが、代わりにMVが豊富です。
ビョークの「Family」(VR)のMV
Notget (ノットゲット)
このアルバムで一番オススメの曲は、「Notget」です。三味線のようなイントロで始まり、ビョークの要素とアルカの要素が、独特な調子で絡んでいきます。歌詞は、death(死)を中心にpain(痛み)・wound(傷)・injury(傷)が並び、それに対置して、love(愛)を中心にheal(癒す)・cure(治療)・remedy(治療薬)が並びます。まさにヴァルニキュラです。MVは、ダークな世界観になっていて、色無しの前半も、色有りの後半も、シュールで強烈です。もう一つ、VR(ヴァーチャル・リアリティ)のMVもあり、光と闇が躍動する空間が創られています。
Stonemilker (ストーンミルカー)
「Notget」は離婚後なので暗いですが、「Stonemilker」は離婚前なのでまだ明るいです。非常に美しい曲で、強いクセも無く、とても聴きやすいのでオススメです。MVは、360度VRで作られていて、見る方向を変えられる画期的なものです(スマホで鑑賞がオススメ)。この頃のビョークは最新技術のVRにはまっていて、VR展「Björk Digital」(ビョーク・デジタル)を開催したり、VR映像集アルバム「Vulnicura VR」をSteamで発売しています。
Black Lake (ブラック・レイク)
「Black Lake」は、10分の大作です。シンプルな曲ですが、展開の変化で飽きずに聴けます。MVは、超横長のワイド画面で、深い悲しみが表現されています。MV関連で言うと、アルカの仲間で不気味なビジュアルを得意とするジェシー・カンダ(Jesse Kanda)にも注目です。彼が監督した「Mouth Mantra」のMVは、ビョークの口内を大変気色悪く映像化してくれてます。
ビョークの「Notget」のMV
1Stonemilker-MV(VR)
2Lionsong-MV
3History of Touches--
4Black Lake-MV
5Family-MVMV(VR)
6Notget-MVMV(VR)
7Atom Dance--
8Mouth Mantra-MV
9Quicksand--

2017年

ビョークのアルバム「Utopia」(ユートピア)
(ユートピア)
第9作目は、陰な前作から反転して、陽なアルバムになりました。鳥の鳴き声も取り入れられ、「理想郷」というタイトル通り、ファンタジックで優しい雰囲気になっています。前半・中盤・後半の三幕構成です。アルカも、前作に引き続いて共同プロデュースしています。ジャケット写真は、ビョーク史上最凶のインパクトを放っており、これのせいで売上が数十万枚落ちるんじゃないかと心配になります。「Debut」の時の清純な印象は一体どこへやら…(思えば遠くへ来たもんだ)。なんだかんだで今作のメイン楽器であるフルートを持ってるのが偉いです。ジェシー・カンダが、この奇抜なジャケットをデザインしたそうです。
ビョークの「Tabula Rasa」のMV
Losss (ロス)
このアルバムで一番オススメの曲は、「Losss」です。アルバム中盤は、不穏な空気になって山場を作る構成が面白いですが、その中心となる曲です。フルートとハープの幻想的な音色と共に、複雑にパターンが変化する異様なノイズ・サウンドが流れてきます。美と醜が交錯するカオスな内容で、凄まじいです。アウトロに出現するオルガンの美しさも効いてます。喪失がテーマで、sが一個多いのは、lossの音を維持したまま複数形ということでしょう。MVは、少しアレンジされた短縮版で、ドイツ人映像作家のトビアス・グレムラー(Tobias Gremmler)による奇怪なイメージです。向かい合うビョークの顔面が、反応しあって変化します。
Blissing Me (ブリッシング・ミー)
アルバム前半は、神秘的な曲のつるべ打ちです。2曲目の「Blissing Me」は、ハープのシンプルなメロディが良いです。MVは、ビョークが舞う姿のワンカット撮影で、不思議な可愛らしさがあります。ちなみに、今作の小ネタを2つ紹介すると、「Arisen My Senses」は、MVにアルカも出演しています。「Features Creatures」は、スウェーデンの友人歌手とお互いに曲を選んでリミックスしたコラボEP「Country Creatures」が作られました。
Saint (セイント)
アルバム後半は、穏やかな余韻モードになっています。「Saint」はその内の1つで、聖者のような女性をイメージした内容です。ビョークの声を複雑に重ねた構成になっていて、慈愛や温かさを感じさせます。前曲の「Paradisia」は、明るさがあるインスト曲なので、イントロ的にセットで聴くのも良いです。
ビョークの「Losss」のMV
1Arisen My SensesSMV
2Blissing MeSMV
3The GateSMV
4Utopia-MV
5Body Memory-MV
6Features Creatures--
7Courtship--
8Losss-MV
9Sue Me--
10Tabula Rasa-MV
11Claimstaker--
12Paradisia--
13Saint--
14Future Forever--
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